製品情報

技術情報

(工技報)高速U軸センタ(ボアーセンタ)の開発

はじめに

近年では、製品寿命の短命化や長期景気予測の困難さ故に、加工設備として、より冗長的な機械が要求される。その上、ATCを含むツーリング技術の進展と、NC制御装置の高機能化により、マシニングセンタやターニングセンタだけで構成された加工ラインでも、品質と生産性を両立できる場合も多く、現在では加工設備機械の主流となっている。最近はさらに、加工様式だけでなく他の処理も含め複合化が進み、オールインワン加工による工程機の集約もなされている。

マシニングセンタとU軸ツール

高機能化したマシニングセンタにおいても、直径方向のコントロール(U軸制御)は現場の長年の夢でありながら、これまで、技術的にもコスト的にもユーザーニーズに応えきるだけのツールが無かった。
機械と工具のコンビネーションで最も効果のあるこのツールは、むしろ機械側にU軸機能を組み込んだ形で、他の機能を犠牲にすることなく、これまでのツーリングとしてのU軸機構の欠点を見直した形で世に出て来ることが早くから期待されていた。

U軸内蔵マシニングセンタの開発目標

上記背景の下、ユーザーサポートもあり、冗長性の有るU軸機能が組込まれたマシニングセンタの開発目標仕様を以下に定め開発した。

1.
工具費用の大幅な削減と、ツーリングの設計自由度を増すために、U軸機構を主軸に内蔵し、且つ、自動工具交換を可能にすること。
2.
フライスなど、通常の工具や通常の加工も可能なこと。
3.
5000rpm以上の高速回転でφ130D400の高精度深穴ボーリング加工が出来ること。
4.
高速回転を維持したまま、50mm(直径値)以上の滑らかなU軸移動(フェーシング加工)が可能なこと。
5.
旋盤用工具コロマウントCAPT-C4を採用し、ATCを含む繰り返し刃先位置決め精度を4μ(直径値)以下に制御出来ること。
6.
主軸のつり合い等級は、如何なるU軸移動状態でもG2.5以下を保つこと。
7.
ATC装置とX,Y,Z,U,Bの5軸制御で、1台にて多彩な加工が実現出来ること。
8.
切削部に最適潤滑が出来るようスピンドルスルークーラントに対応出来ること。
9.
切削屑処理の容易な横型構成とし、ワーク着脱時間が稼働率を下げないようパレットチェンジシステムを採用すること。
U軸特有の高速・高ストローク化の課題

従来からあるマシニングセンタ用のU軸ツールは、何れもカウンターバランス方式であるため、高速回転時の振動対策だけでなく、U軸駆動系への過負荷防止のため、中央で2000rpm最大仕様でもU軸変位と共に指数関数的に回転速度を落とさねばならない。例えば、重量1Kgの工具が回転中心から13mmオフセットしただけで、5000rpm時には3500Nもの遠心力が工具に働くわけで、この力が倍になってU軸に戻ると考えると問題の大きさが分かる。また、重心点のゼロクロス時には送り系の遊び方向が反転するため、フェーシング加工の送り目に飛びが発生し、実質的に半分以下のストロークでしか使えないこともある。
中でも仕上げボーリング加工においては、工具の回転バランスの良否は加工部の真円度や円筒度に大きく影響するため、高速回転中にU軸をどこに動かしても、主軸は常に8g・cm以下のつり合いを保たねばならない。しかるに、カウンタバランス法での広域での2面バランス修正はほぼ不可能と断言できる。

これまでの中速U軸機構

工具刃先が回転中心から半径方向に(U軸)移動すると、工具重心も移動し、回転バランスが崩れるのが普通である。そのため低速回転仕様以外では、通常U軸移動に伴う重心移動をカウンターウェイトで補償したり、重心移動しない機構が組み入れられている。 最も多い例として、図1a~1bのようにU軸が移動しても回転対称性が失われないように、回転面板上の刃物台を対向するように配置し移動させる方法(シングルチップの場合のカウンターウェイトも考え方は同じ)がある。

この場合、動的バランスは確保できるものの、工具及びU軸可動部に加わる遠心力は、移動半径と主軸回転数の二乗に比例して大きくなり、しかも構造によっては二つの工具(またはカウンタウェイト)に作用する遠心力がU軸の駆動系または送りネジに加算されて作用することから、様々な使用上の制限を受けたり、送りネジの強度や磨耗等寿命上での問題を引き起こすこともある。

また、図2a~2b(弊社特許)のように、カウンタバランスによる送り系への負荷を半減する方法や、リンク及びカムを用いて、近似的にカウンタバランスを取るとともにU軸送りネジに作用する遠心力を打ち消す方法も採用されているが、遠心力や静的バランスでさえも全域で完全に補償することは出来ないため、移動重量や大きさにもよるが、1500rpm程度が限界である。

これまでのU軸機構の高速化対応

最近ではダイヤモンドやCBN工具などの出現で、生産性だけでなく加工形状精度維持の為にも、素材によっては1000m/minを超える切削速度で旋削加工する場合もよくあり、部品の軽合金化とともに高速対応ニーズが高まっている。
ところがU軸加工の場合、工具をr(mm)移動したために、補正しきれないアンバランス質量m(kg)が残った場合、角速度ω(rad/sec)で主軸回転させると、工具ホルダには横方向にmrω2の遠心力が作用する。工具が中心から10mm移動したところで20gの補正誤差(20gcmの不釣合い)が残ったとすると、回転数1000rpmの場合では2N程の作用力であるが、5000rpmになると50N以上の力で旋回振動が発生することになる。そのため5000rpmの回転では工具ホルダ単体で見れば2.4gcm(BT40相当の標準的なMCに二面拘束など十分な剛性で装着した状態で見ても8gcm)以下の動的不釣合い以下に抑えたいところである。
ところが、これまでに述べたカウンタ近似バランス法では静的釣り合いを取ることさえ困難(U軸ストロークにもよる)で、ましてや動バランスを前述のレベルまで取ることは不可能である。 そこで、高速用として広く実用化されているU軸移動方法に偏芯方式(図3a)がある。

その場合、工具を含む工具軸の回転バランスさえ取られていれば、偏芯した位置で工具軸が旋回してもホルダ内の重心点が動くことが無いため理想的なバランスが保たれるが、U軸の移動と共に刃先のすくい角が変化するため、切削加工する上で好ましくない。 また、主軸回転中心線に直角に交わる線を支点および重心にして、可傾する工具ホルダをシーソーのように傾斜制御することにより、工具刃先をU軸方向に移動させるもの(図3b)もある。 この場合も、工具ホルダ全体のバランスが崩れることは無いが、刃先が円弧状に動くために、フェーシングする場合などはZ軸とU軸を三角関数で複雑補間しなければならないし、刃先が直線的に動かないため総型溝入工具などは使用出来ない。また移動量と質量にもよるが、ゼロ点を境に正負に少しでも移動すれば、遠心力により勝手に駆動方向に動かされる力が働く。そのため、ゼロ点付近でバックラッシの反転による「飛び」が発生しないように特別な対策管理が必要である。

理想的なU軸機構を目差し開発

以上述べたように、当初の開発仕様目標を達成するためには、基本的にバランスは取るのでは無くバランスが崩れない方式、つまり偏心方式しか無い。しかるに、先に述べた偏芯式U軸方式では、刃先のすくい角が変化し結果的に高ストローク確保の目標は程遠くなる。 そこで、偏芯を二重にすることでバランスを崩すことなく、すくい角も変えることなく、偏心量の4倍のストロークを確保できる二重偏心動作を考案するに至る。また、偏心方式特有の問題として切削主分力が偏心軸の捻りモーメントとして戻るために、ビビリが発生し易いという課題もあった。そのため、直線案内部を敢えて摩擦摺動にし振動吸収させている。工具軸から見て第一偏芯軸と第二偏芯軸を互いに逆方向に旋回させれば、工具軸は偏芯量の4倍の距離を直線移動する。工具軸単体、工具軸と第一偏芯軸、工具軸と第一偏芯軸と第二偏芯軸で、各々動バランスを取っておき、しかもそれらの重心平面を一致させておけば、いずれの軸がどのように旋回しても、重心が一切移動しないという原理を用いた理想のバランス方式である。しかも如何なるU軸位置でも遠心力は完全に打ち消され、各軸を旋回させようとする力が一切作用しないため、高速回転中も静止状態と殆ど変わらない力でU軸駆動出来、従ってバックラッシによる飛びも発生しない。

バランスを取るのでなく崩れなくする

回転バランスの取られた所定重量(1Kg)の工具がバランスの取れた工具軸に常にクランプされているものとする。この工具軸を組み込んだ偏心軸完備品全体の回転バランスを取っておくと、工具軸と偏心軸が如何なる位相関係にあるときも、偏心軸完備品の重心位置は変動しない。この偏心軸完備品を本体に組み込み、更に全体の回転バランスを取ると、偏心軸と本体の位相関係が如何なるときも、本体の重心は常に回転中心の一定の位置にあることになる。すなわち、工具軸・偏心軸・本体の位相関係が如何なるときも、本体重心が移動しないことになる。また、如何なる軸にも回転バランスが取れているため、遠心力による軸回転モーメントは一切発生せず、従って遠心力という外乱がU軸駆動系に戻ることは無い。

刃物台故U軸はスライド摺動が基本

U軸ツールを保持する工具軸は旋盤でいうところの刃物台である。それ故切削主分力を受け止めるU軸スライドには敢えて摺動型を採用した。工具軸が径方向に移動するときに、本体と偏心軸がそれぞれ逆方向に同じ角度だけ、同期しながら旋回する機構となっており、工具軸は摺動レール上を直線状にスライドする。すなわち、工具刃先の移動方向は常に一定方向を向くように移動する。また、偏心量の4倍のストロークを正負に移動するため、主軸径に比べて大きなU軸ストロークが確保できる。

高速U軸センタの機械仕様
低コスト品の普及に向けて
  • 今のところ、二重偏心式U軸(弊社特許)は、主軸にU軸機能を内蔵した商品「高速U軸センタ」(上記仕様)しか無いが、現在、小径テーパ穴仕上げ加工が出来るU軸ツールとして、BT40汎用MCに後付可能な「高速U軸ホルダ(5000rpm)」(図7)の開発パートナーを模索中である。
終わりに

U軸駆動モータをヘッドに内蔵したものを別にして、U軸ヘッドを外部から駆動伝達する方法として、主として「直線-直線変換」方式と「回転-直線変換」方式がある。主軸内部を通じて駆動する場合、主軸内部温度によるU軸位置決め精度への影響を回避するため、一般に「回転-直線変換」方式が採用されている。そのため、U軸の駆動には差動ギヤが必要で、最小限の遊びが設けられている。ところがU軸バランス方式が偏芯軸方式で無い限り、主軸回転中にU軸スライドの重心が主軸回転中心を通過するとき、遠心力の作用方向が180度反転し、バックラッシ補正量及び方向を確定することが出来ないという問題が起こる。従って、U軸機構によっては、精密な位置決めをする場合に限り、主軸停止中の一方向位置決めが必要であったり、位置決め後のロックが必要であったりすることもある。これは何れも高速回転する径方向の軸移動(U軸)特有の現象で、これらのことから、多少複雑で高価であったとしても、U-Zによる精密な補間切削などを行なうためには、遠心力という避けることの出来ない外乱に影響されないU軸制御が必要である。

2015/11